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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)691号 決定

抗告人 マメトラ農機株式会社

右代表者代表取締役 細田昇

右代理人弁護士 中村生秀

相手方 甲野花子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

(抗告の要旨)

抗告人は「原決定を取り消す。相手方の本件建物収去命令申請を却下する。申請費用は全部相手方の負担とする。」との裁判を求め、その理由として主張するところは別紙抗告理由書に記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

1  抗告理由第一項ないし第四項について。

本件記録によると、申立人山田一郎、相手方(本件相手方)山田花子、利害関係人(本件抗告人)マメトラ農機株式会社、利害関係人細田さと間の浦和家庭裁判所川越支部昭和三二年(家イ)第八二号離婚調停事件において、昭和三四年五月二〇日成立した調停により、「相手方は申立人と調停離婚し、申立人より所沢市大字久米字里ノ宮一、〇四四番の二(住居表示実施により、昭和四一年四月一日より、所沢市星の宮一丁目一、〇四四番の二と変更)、宅地一、二七六坪八合三勺の分与を受ける。右土地上に建在する家屋番号久米二二六番、一、木造瓦及亜鉛メッキ鋼板葺二階建居宅一棟、建坪三八坪三合七勺、外二階一〇坪、付属建物一〇棟(以下「甲建物」という)に関して、(イ)相手方は申立人および利害関係人会社に対し昭和三四年五月二〇日より一〇年間その明渡を猶予する、(ロ)申立人および利害関係人会社は相手方に対し右猶予期間が満了したときは何らの通知催告を受けないでその占有する建物を収去のうえ宅地を明渡す。」旨を約したこと、しかるに右猶予期間を経過しても利害関係人会社が約旨を履行しないため、相手方が右調停条項にもとづき、利害関係人会社において本件土地の上に建在所有する所沢市星の宮一丁目一、〇四四番地二所在、家屋番号二二六番二、一、木造スレート葺平家建変電所一棟、建坪七・五〇坪、付属建物二棟(現況)(以下「乙建物」という)を収去すべき義務があるとして建物収去命令を申請したところ、原裁判所が乙建物につき収去命令を発したこと、乙建物は昭和三三年七月九日利害関係人会社のため保存登記されていたので、右調停の成立当時すでに本件土地の上に建在していたことが認められる。

ところで、右調停調書によると、利害関係人会社らが相手方に対して収去すべきものとされているのは甲建物だけであって、本件収去命令の対象とされている乙建物の表示がなされていないことは抗告人の指摘するとおりである。しかしながら、右のごとき建物収去土地明渡をなすべきことを内容とする債務名義において、収去すべき建物の所在する土地の地番、地目、地積が特定し、その地上に建在する建物を収去し、右土地を明け渡す旨が明示されている場合には、とくに明示された除外物件を除き、債務名義成立当時右地上に存在したすべての建物を収去すべきことを定める趣旨のものと解するのが相当である。

そうだとすると、本件調停の成立当時すでに本件地上に乙建物が建在していたにもかかわらず、右調停調書に収去すべき建物として乙建物の家屋番号、建物の種類、構造、坪数などの表示がなされていないからといって、とくに乙建物を収去の対象物件から除外する旨を明示していない本件にあっては、これを収去の対象とすることができないものということはできず、この点に関して、原決定には何らの違法もない。

2  抗告理由第五項について。

抗告人は、付属建物数棟を含む一筆の建物を除去するための授権決定は、該建物の全部を対象としてすることを要し、そのうちの一部についてだけすると目的建物を特定できないため許容されるべきではないと主張する。しかしながら、建物収去の授権決定をするに際しては、必ずしも建物の全部を対象としなければならぬとするいわれはなく、その目的を達するに必要にして十分な限度ですれば足りる。抗告人の右所論は独自の見解であって当裁判所の採用しないところである。また本件授権決定の対象として表示されているところでは、目的たるべき建物が特定されないというが、全証拠を精査してみてもこれを認めるに足る証拠はない。

3  よって、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 多田貞治 裁判官 上野正秋 岡垣学)

〈以下省略〉

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